まちづくり community_development

持続可能な “自走する街

ネットワーク型コンパクトシティ構想でまちづくりの未来を拓く

宇都宮市は関東平野の一部で平 地が広く、古くは二荒山神社を中心に都市が拡大、発展。居住可能エリアが広いことから、周辺地域からも人口が流入しました。度重なる市町村合併を経て、現在では県の行政、商業の中心地として発展しています しかしながら市にも急激な人口減少の波が押し寄せており、30年後の 2 0 5 0 年には、市の人口は現在の約52万人から45万人まで減少すると予測されています。こ の状態が続けばやがて都市部の人口が低密度化し、郊外までメリハリの無い市街地が拡大。その結果、コミュニティの分断、交通空白地域の発生、空き家や空き地の増加といった問題が起こる可能性があります。また、医療や福祉、商業などの市民の日常生活を支える機能の郊外・分散立地化が進めば、様々なサービスの提供の非効率化など暮らしの利便性が低下する恐れもあります。移動手段を自家用車としている住民も多く、高齢化問題とも相まって長期的に深刻な問題に発展していく恐れがあります。

では、どうするか?人口減少を食い止める方法として「経済政策」「高齢者に対する施策」など様々な政策がありますが、減少自体が止まらなければ長期的に継続していくことは難しい。そのような人口減少、少子・超高齢化社会に対応したまちづくりに向け、大学教授など有識者を交えて解決策について議論を重ねた結果、「持続可能なまちづくりには都市構造から見直すべき」という結論に至りました。こうしてとりまとめられたのが、まちづくりの方向性を示した「ネットワーク型コンパクトシティ( N C C)」です。

拠点化とネットワーク化  階層性ある公共交通で繋ぐ

 コンパクトシティには「一極集中型」、都市拠点以外に複数の地域拠点を擁する「クラスター型」など、数種類のタイプがありますが、市が目指すのは「ネットワーク型」と呼ばれるもの。具体的な考え方については、次の2点が基軸となりました。

 第一に「拠点化」です。市は、合併を繰り返すことで発展・拡大してきました。そのような都市の成り立ちや、地域の歴史・文化、コミュニティなどを踏まえ、各地域の核となる場所に拠点を配置。地域に必要な機能の誘導や既存の都市基盤ストックなどの活用などを図りつつ、機能をコンパクトに充実(拠点化)させていくことが狙いです。

 もうひとつが「ネットワーク化」。コンパクトな拠点同士を「階層性ある公共交通」で繋いでいくための決め手となるのが次世代型路面電車システム= L R Tです。これを現在、JR宇都宮駅の東側へ約15㎞整備しているところであり、同時に西側への延伸についても検討をしているところです。L R Tをはじめとする様々な公共交通を用いて大人は勿論、高齢者、子ども、障がい者が便利で快適に移動できるようにするのが狙いです。 L R T導入のメリットは、実は他にもあります。現在、JR宇都宮駅の西側では一日2千本以上のバスが運行。中長距離すべての公共交通の役割をバスが担っており、非効率な状態です。一方、駅の東側エリアは自動車による移動が中心であり、慢性的に渋滞が発生さらに鬼怒川を挟んだ東側には工業団地があり、橋を渡る車による渋滞 が常態化しています。L R Tが整備されれば、これらの課題解決に繋げていくことができると考えています。また、L R T の整備と並行し、地域住民の日常生活における身近な移動手段を確保するため、公共交通空白地域において、乗合タクシーなどを活用した「地域内交通」の導入も進めています。「地域内交通」の持続的な運行に向け  ては、地域住民に自分たちの交通を「つくり」、「まもり」、「育てる」という「自分事」としての意識を持っていただくことが重要であると考えています。検討段階から実際の運行に至るまで、地域住民が主体となって取り組んでいただいており、行政もそれを支援しています。鉄道やL R Tを基軸としてバスや地域内交通などが効果的に連携した「階層性ある公共交通ネットワーク」によって、拠点周辺に住む誰もが将来の人口の増減に左右されずに移動の自由が担保されること。L R Tは単独でなく、他の交通手段などと連携することで、より効果を発揮するものです。持続可能かつ有用な交通網を構築するためにどうすればよいか?これは今後も議論が必要です。

官民連携の仕組みに工夫あり 不確実な未来に立ち向かう

一般的に、行政側が計画した施策を推進するうえで最大の障壁となるのが「官民連携」の難しさです。そこで市では、「官民連携」を円滑化するための仕組みを設けています。そのひとつが「みや・公民連携デスク」です。これは、民間事業者からの相談や提案に対し、一元的に対応する窓口としての機能を担っています。その他にも、  I C T 等の様々な先進技術を利活用し、社会課題の解決や新たな事業の創出など、市が将来にわたって持続的に発展できるスマートシティの実現を目的に、官民協働による「スマート推進協議会」を設立しています。現在、27団体が参画し、人々の暮らしをよりよくするための様々な実証実験を行ってきています。

またその一方で、自治体内部の連携の難しさも克服しなければならない課題です。市の基本計画の一部に「まちづくり好循環プロジェクト」と題した頁を設けて、どの部署がどの取り組みテーマを担当するかチャートで明示。行政の縦割りを可能な限り無くしつつ、主体性を持ってプロジェクトに参画するための工夫を図りました。

本市が目指す「ネットワーク型コンパクトシティ」の推進にあたっては、地域住民の協力が不可欠であることから、計画の策定段階から地域への説明会を実施してきました。意見交換の場においては「住んでいる地域がどのように変わるのか具体的に示して欲しい」という意見がありました。そこで市民の「ネットワーク型コンパクトシティ」への理解を促進するために、暮らしのシーンごとに漫画やイラストなど様々な伝達手法を検討したり、より多くの興味関心を持っていただけるよう地区別に市民説明会を開催し、周知啓発を行ってきました。

拠点地の推進に向けた具体的な手法は、まず市民が中心部や駅周辺、幹線バス路線沿線などの公共交通を使うことを想定しつつ、それぞれに「居住誘導区域」を指定します。マイホーム取得補助や家賃補助などによって、ライフサイクルの節目や世代交代のタイミングを契機に、緩やかに居住の誘導を進めていきます。また、市民の日常生活を支える病院やスーパーマーケット、子育て施設に加え、働ける場としての企業など、まちの機能の誘導にも取り組んでいきます。拠点に「住む」「働く」が無いとバランスがとれないからです。

このように、人口減少など確実な未来に対応する「ネットワーク型コンパクトシティ」を持続可能なまちづくりの基盤としながら、「デジタル化」や「脱炭素社会」への対応など、多様化・複雑化する市民へのニーズや社会潮流を捉えたまちづくりを、今後も進めていきます。

持続可能社会の実現には「自走する」街づくりが必要

市では「未来都市うつのみや」と題した計画書を作成しており、その最新版が「第6次宇都宮市総合計画」です。全体は3部構成で、まず「基本構想(中長期的な構想)」は、市が目指す都市像と実現のための施策をなどの方向を策定。 2 0 5 0年のゴールを目指します。次が「基本計画(5〜10年程度の中期計画)」、さらに「実 施計画(3年程度の短期計画*毎年度見直し)」へとブレイクダウン。ちなみに、   2 0 1 9 年に国から「S D G s未来都市」に選定された本市は、この計画書と連動して各取り組みを進めている。住みやすさは全国(50万人以上の都市の中)でベスト3にランクインしている本市。しかし、本当に持続可能な地域社会をつくるためには、それぞれの施策が短期的でなく、恒久的かつ「自走」できるための仕組みが必要です。その中核的役割を担うのが「ネットワーク型コンパクトシティ」のような「器」なのです。

人口の減少自体を止めることはできない。だったらそれに左右されない、フレキシブルに変化し続けられるまちを目指す。たとえ将来的に予測不能な変化が起こったとしても、人とまちが主体的に「自走」しながら自己変革し、持続可能となるシステムが求められているように思います。

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