食と農 food_agriculture

有機肥料で進める地域の資源循環

朝日アグリア株式会社

 国際的な肥料価格高騰を受け、肥料原料として未利用資源が注目されている。日本では人口減少とともに肥料の使用量も減っているが、世界では人口増加とともに肥料需要が増加しており、自国優先として肥料の輸出を制限する国も出てきている。肥料原料のほとんどを海外に依存している日本では、肥料の安定確保のために国産の割合を増やすことも重要であり、家畜由来の堆肥や下水汚泥といった国内の未利用資源を活用した有機肥料の導入が急がれている。そこで、有機肥料の拡大に取り組んでいる朝日アグリア株式会社(以下、「朝日アグリア」)に、肥料原料と資源循環の取り組みを聞いた。

食料安全保障と環境保全の両面から進む有機肥料への転換

 化学肥料の主な原料は尿素、リン酸アンモニウム、塩化カリウムだが、日本では約99%を輸入に依存している。そのため、国際情勢や為替状況などによっては安定的な確保が難しくなる。さらに、肥料の製造コストに占める肥料原料の割合は約6割とされており、輸入価格の高騰はそのまま肥料価格に直結する。

 実際、国内における肥料価格は高い水準のまま推移しており、ピークとなった2022年の肥料価格は高騰前の3倍近い水準となっている。こうした状況について、朝日アグリアは「肥料原料の高騰はこれまでにも一定周期で発生していますが、今回はピークを過ぎても高止まりが続いており、これまでのような一過性のものではないという見方が強まっています」としている。特に、リン酸アンモニウムについては主要輸出国である中国が輸出を規制するなど、先行きは不透明なものとなっている。

 こうした背景から、肥料の持続可能な供給体制を確保するため、政府は家畜排せつ物や食品残さ、下水汚泥といった国内の未利用資源を活用した有機肥料への転換を急いでいる。農林水産省が進める『みどりの食料システム戦略』においても、2030年までに化学肥料の使用量を20%低減、さらに2050年までに30%低減という目標を打ち出している。

 また、化学肥料の低減は肥料の安定確保だけでなくカーボンニュートラルの推進にも貢献する。化学肥料の使用により、CO2の約300倍の温室効果があるとされるN2Oが発生することが分かっており、脱炭素の観点からも化学肥料の低減は効果的な施策と言える。

化学肥料と堆肥の“いいとこ取り”を実現

 化学肥料が使われる理由は、その使いやすさと速効性にある。加工や成分調整が容易で品質が安定しているだけでなく、短期間での効果が期待できるため、高い生産性を実現できる。もちろん良いことばかりではない。前述のようにN2Oの発生を招くばかりではなく、長年化学肥料のみを使用し続けると土壌に有機質が補給されず地力を弱めてしまうため、保水力や保肥力が低下し、病害虫や病原菌が発生しやすくなるといったデメリットもある。

 一方、堆肥や緑肥などの有機物は、緩効性のため肥料効果が出るのに時間がかかり、種類によって成分にばらつきがあるが、土壌環境の改善による地力の増進や保水力、保肥力の向上、病害虫や病原菌の発生抑制などの効果が認められている。しかし、多くの農家がその重要性を理解しながらも使用が進まないのは、そのハンドリングの悪さによるところが大きい。

 こうした中、朝日アグリアでは「有機肥料を”もっと”使いやすく!」をコンセプトに、独自技術によりデメリットを改善した有機肥料の普及拡大に取り組んでいる。油かすや大豆かす、フェザーミール(羽毛の加工物)などの食品加工残さを原料とした従来型の有機肥料に加え、十数年前から牛ふんや豚ふん、鶏ふんなど家畜排せつ物から作られる堆肥を原料とする混合肥料の製造も開始。『堆肥を極める』をテーマに、全国のJAなどと連携しながら着実に売り上げを伸ばしている。

 同社最大の特徴は、堆肥などの有機原料を一般的な農業用機械でも扱いやすい硬度、形状に加工できる独自の造粒技術にある。「化学肥料原料の粒状への加工は多くの肥料会社が行っていますが、有機原料を機械で扱える性状に造粒する技術は当社がナンバーワンだと自負しています」と自信をうかがわせる。

 家畜排せつ物などを原料とする堆肥は運搬や散布のしにくさ、地域ごとの成分のばらつきなどが課題となって利用が進んでいない未利用資源の一つだ。同社では、品質管理された高品質な堆肥を原料に、不足する肥料成分を化学肥料原料で補う『混合堆肥複合肥料』とすることで、有機肥料のメリットと化学肥料のメリットを同時に享受できる“いいとこ取り”の肥料を開発。『エコレット』シリーズとして展開している。

<独自の造粒技術でハンドリング性を大幅に向上>
<混合堆肥複合肥料の『エコレット』シリーズ>

 朝日アグリアでは、「従来の堆肥は、その形状から専用の農業用機械や人の手で散布する必要があります。しかし、当社のエコレットシリーズは独自の造粒技術により一般的な農業用機械を使った効率的で手間のかからない散布が可能になります。また、製造過程で高温乾燥することで雑草種子や病原菌などへの対策を講じているほか、使用する堆肥の重量も処理前の10分の1程度となり、重量当たりの肥料成分の含有量が保証されているというメリットもあります」とエコレットシリーズの優位性を語っている。ハンドリングの良さと肥料としての高い性能に加えて、水分が低いため運搬コストも抑えられる。さらに、堆肥という国内の原料を採用しているため原料高騰の影響も受けにくいという点が評価され、順調に売り上げを伸ばしている。

 さらに、「地力を増進させる効果は使い始めてすぐに実感できるわけではありませんが、国や県の試験場での連用試験では根の張りや成長促進など目に見える形でその効果が表れてきます。使い続けることでじわじわと効果を実感できるということからリピーターが増え、販売開始3年目あたりから販売量も増加しており、10年目となる2022年度は1万トンを超えました。来年度にはエコレットをはじめとした堆肥を原料に使用した肥料の販売量を3万トンまで拡大させることを目標としています。地域の資源循環と有機肥料の利用拡大を目指して、今後も取り組みを強化していきます」と意欲を見せている。

  また、堆肥利用による地域資源循環の取り組みにも着手している。「商品としての価値を維持するため、原料である堆肥は高品質なものを厳選していますが、地域の資源循環にも貢献したいという思いから、関東工場、千葉工場、関西工場を拠点に、特定の堆肥を原料に使用した肥料をその堆肥が発生した地域で販売する耕畜連携の取り組みを進めています。堆肥利用の拡大には我々のような肥料会社だけでなく、堆肥の供給元である畜産農家や肥料のユーザーである耕種農家、また各地のJA組織など関係者が一体となった全国的な取り組みが必要です。当社としては、様々なパートナーとの連携も視野に、各地域に適した資源循環システムを提案していけたらと考えています」と地域協働への思いを語る。

<堆肥地域循環の拠点の一つとなる千葉工場>

新たな公定規格『菌体りん酸肥料』への挑戦

 農林水産省と国土交通省では安定的な肥料原料確保のさらなる促進に向けて、肥料法に基づく肥料の新たな公定規格として『菌体りん酸肥料』を新設し、2023年10月1日から運用を開始した。これは、下水汚泥やし尿汚泥、工業汚泥など国内の未利用資源の利用拡大を図るための措置となる。すでに『汚泥肥料』という規格もあり、製品中の重金属が基準値を超えていないことや植物への害が認められないものに限って登録・流通が認められているが、肥料成分のばらつきが大きいことから含まれる肥料成分を保証できず、ほかの肥料との混合などは認められていない。

 一方、新たな公定規格である『菌体りん酸肥料』は、汚泥肥料の条件に加えて原料の管理や年4回以上の肥料の分析などを盛り込んだ品質管理計画の作成とそれに基づく適切な管理が追加されている。これにより肥料成分の保証が可能となり、ほかの肥料と混合して使用できるなど活用の幅が大きく広がった。

 この新規格について朝日アグリアでは、「新たな公定規格によって、未利用資源のさらなる有効活用が期待されます。もちろん、当社としても新たなビジネスチャンスであり、新規格に基づく商品開発に着手しています。下水汚泥などは重金属等の有害成分や地域ごとに異なる肥料成分、肥料成分として期待されるリンの形態把握など、安定した肥料原料として活用するために解決すべき課題が残されていますが、自治体など関係者と連携しながら技術開発に取り組んでいます。当社独自の造粒技術を生かした新たな有機肥料として、製品化を実現したいと思っています」としている。

 独自の技術で有機肥料の道を切り開いてきた、朝日アグリアの新たな挑戦が始まっている。

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