食と農 food_agriculture

持続可能社会のカギを握る『微細藻類』の可能性 <前編>

中央大学理工学部人間総合理工学科

  山村 寛 教授

 光合成を行う生物のうち、コケ植物、シダ植物、種子植物を除いたものが『藻類』と分類される。藻類と聞くとコンブやワカメといった海藻などの大型藻類が思い浮かぶかもしれないが、その大半は目に見えないサイズの『微細藻類』と呼ばれるものだ。微細藻類は目に見えないサイズながら様々な機能を持っており、持続可能社会の構築への貢献が期待される存在でもある。そんな微細藻類の可能性について、中央大学理工学部人間総合理工学科の山村寛教授に聞いた。

        

活用が進む微細藻類の有用成分

 微細藻類について山村教授は、「水質という点から見ると、臭いや赤潮の原因になるなど微細藻類はあまりいいイメージを抱かれていないのではないでしょうか。しかし、微細藻類は光合成によって酸素や様々な有用成分を生み出すことができるため、脱炭素が求められる昨今、多くの分野で注目さています」と語る。

 光合成とは、光エネルギーを利用して水やCOから炭水化物を作り出すプロセスのこと。微細藻類は光合成によって酸素を排出するだけでなく、タンパク質などを生み出すことができる。また、周囲のビタミンやミネラルといった無機質を取り込みながら、EPA(エイコサペンタエン酸)やアスタキサンチンなどの抗酸化成分、さらには油などを貯蔵するものもある。こうした有用成分が注目され、健康食品や医薬品、化粧品などの原料として活用されているほか、油の回収による再生可能エネルギーの創出なども期待されている。

 「青魚などに含まれているEPAは頭が良くなる成分とも言われていますが、血液や血管の健康維持に必要な成分とされていて、ナンノクロロプシスという微細藻類に豊富に含まれています。また、アスタキサンチンはトマトや人参に含まれるリコペンやβ-カロテンなどと同じカロテノイドと呼ばれる成分で、エビやカニ、サケなどの赤い色素もこれに由来するものです。高い抗酸化作用を持ち血流の改善や眼精疲労の軽減、皮膚の保湿や弾力の維持など様々な効果があるとされており、ヘマトコッカスという微細藻類に多く含まれています」

 これらの成分は人の体内で作れないため、魚や野菜を食べることで摂取することとなるが、微細藻類は成長速度が植物の10倍以上と早期培養が可能なうえ、これらの成分を豊富に含むことから、医薬品や化粧品、サプリメントなどの原料として広がりを見せている。

 「メディアを通して健康に関する情報が多く飛び交う中で、クロレラやユーグレナなど健康食品として有名になった微細藻類もいます。さらに、多くの企業や研究者によって新たな有用成分を含む新種の発掘も進められていて、微細藻類の可能性はますます広がっています」とさらなる用途拡大に期待を寄せる。

ユーグレナ

燃料の製造や飼料化の動きも

 微細藻類の新たな用途の一つとして研究が進められているのが燃料の生産だ。「微細藻類の中には細胞内に油を蓄積するものがいて、それを回収し再生可能燃料を生産する研究も多くの企業や大学で行われています」という。中でも意欲的に進められているのが航空燃料。微細藻類のほか、廃食油やバイオマス資源などを原料とするジェット燃料『SAF』(持続可能な航空燃料:Sustainable Aviation Fuel)の商用化に向けた検討などが、産官学連携のもとで進められている。

 山村教授は、「世界的にSAFの導入促進が取り組まれていて、日本でも『持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会』や産官学のコンソーシアムなどが設置され、各種支援策も含めた様々な検討が行われています」と話す。SAFの製造は欧米が先行しているが、日本でもSAFによるフライト実証などが行われており、2030年をめどにSAF製造施設の商用運転が始まる見通しとされている。

 さらに、燃料を回収した後の残渣も重要な資源となる。「微細藻類の中には植物プランクトンと呼ばれるものもいて、以前から魚などのエサとなっていました。油を回収した後の残渣(搾りかす)にも栄養成分が残されており、養殖漁業などでエサの原料となる魚粉の代替資源としての活用が可能です」とその有効活用に注目している。

 世界的な飼料価格の高騰を受けて、魚粉の価格も上昇傾向にあり、魚粉のほとんどを輸入に依存する日本では代替となるタンパク質が模索されている。微細藻類は『食物連鎖の出発点』とも呼ばれ、タンパク質や栄養成分を豊富に含んでおり、魚粉と比べてそん色ない栄養価を有することが分かっている。

 山村教授も微細藻類をナマコの飼料として利用する研究を行ってきた。「微細藻類が効果的にタンパク質を生成できるように、タンパク質の主要構成物質である窒素を多く含む下水処理水を使った培養を行いました。下水中には栄養分のほかにも大腸菌や重金属などが含まれていますが、これらよりもメッシュの細かい膜を利用して液体と固体を分離処理するMBR(膜分離活性汚泥法)という手法で処理した水が微細藻類の培養に適していることが分かり、採用しました。その結果、微細藻類飼料に含まれる有害金属濃度は飼料の安全基準を下回り、タンパク質も魚粉と同程度含まれることが分かりました」

油を回収した後の微細藻類を飼料としてナマコを飼育する実証研究も

 研究では飼料としての有効性を確認した一方、「事業化には飼料として競争力のある価格とするためのさらなる低コスト化と、関係者のニーズを踏まえた適切なマッチングが必要です。この実証でも、下水道事業者や養殖事業者、食品加工業者、食品流通業者など関係者は多岐にわたりました。そして、すべての関係者が利益を享受できる構造にならなければ事業としては成立しません」と新たな課題も浮き彫りとなった。

 こうした課題について山村教授は、「研究者が行う基礎研究を社会システムとして定着させていくためには、『人と技術のミルフィーユ』を作り上げていく必要があると考えています」と語る。「単に関係者同士を結びつけるのではなく、技術を核として双方の強みを生かしながら双方にメリットのある仕組みを構築する。そして、それを何層にも増やしていく。そうすることで、多くの関係者が互いに有意義な形で連携し、新しい発想や展開が生まれていきます」

  様々な分野での活用が期待される微細藻類。しかし、多様な事業展開を図るには多くの関係者との連携が不可欠だ。新たな技術の研究とその技術で結ばれるコミュニティが何層も積み重なっていくことで、微細藻類の新たな可能性が生まれていく。

<後編に続く>

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