働き方/子育て work_childrearing

手ぶらで楽しめる“日常”と“非日常”

日光市

 日光東照宮や足尾銅山などの文化遺産から、華厳の滝、戦場ヶ原、鬼怒川温泉などの豊かな自然を有する全国屈指の観光地である日光市において、“新しい働き方”の創出に向けた取り組みが動き出している。ワーケーションなど“新しい働き方”の提案によって『ひと』と『しごと』の流れを生み出す公民連携プロジェクト『スマートワークライフ#Nikko』の目指すこれからの日光市の姿とは。

いつでもどこでも誰でも楽しめる日光

 栃木県の4分の1の面積を占める日光市。その広大な地域には歴史、文化、自然を感じさせる多彩な観光資源が広がっており、年間約1200万人もの観光客が訪れる日本屈指の観光都市だ。新型コロナウイルスによって観光地が影響を受ける中においても、約800万人が観光に訪れるなどその人気は衰えを見せない。

 一方で市の人口は減少を続けており、地域のコミュニティを維持していくうえでも人口減少への対策は不可欠と言える。日光市ではその一環として、観光資源に代表される市の魅力を生かしたワーケーションなどの“新しい働き方”の提案によって地域の活性化を図る公民連携プロジェクト『スマートワークライフ#Nikko』を2022年8月にスタートさせた。

 『スマートワークライフ#Nikko』は、「Aからはじまる新しい日光体験~準備不要・手ぶらで楽しめる日常と非日常をAから」をコンセプトとしている。ここでいう“A”(エーキューブ)は”Anytime, Anywhere, Anyone can make fun in Nikko”の略で、「いつでも、どこでも、誰でも日光を楽しめる」を意味する言葉だ。観光地という“非日常”と仕事という“日常”を同時に感じることができる、まさに「ワーク+バケーション」の造語である“ワーケーション”を体現した取り組みだ。

 プロジェクト発足の経緯について、日光市企画総務部の小林岳英部長は「新型コロナウイルスに伴う行動制限によって、仕事をする場所に対する考え方が大きく変わりました。これまでは、オフィスなどに出社して仕事をするのが当たり前でしたが、通信環境さえあればどこでも仕事ができるというように変わってきており、そうした“新しい働き方”は今後も多様化していくのではないかと考えています。そうしたニーズに対して、日光市を活用していただけるように『スマートワークライフ#Nikko』を発足しました」と語る。

 近年、田舎暮らしへの関心は高まりから特に定年を迎えた高齢層の地方移住が増加傾向にあったが、新型コロナウイルスに伴うリモートワークの拡大によってその影響は若年層にも波及している。また、企業においても採用促進や離職抑制などを目的に福利厚生を充実させる傾向が強まっており、都心を離れてリフレッシュしながら仕事をするワーケーションをメニューに取り入れる企業が増えてきている。

 スマートワークライフ#Nikkoは、サービスの提供者である“地元”と利用者である市外ワーカーや企業とのマッチングやコンサルティングを通して、幅広い交流の場の形成を目的に構築したプラットフォームで、『地域資源(食・泊・遊・働)』と『交通・MaaS』『企業発掘/金融支援』『ワークプレイス』『プロモーション』の5つのワーキンググループにおいて具体策の検討を進めている。すでに、宿泊施設などを活用したワーケーションの提案や利用者への支援、ワークプレイスや通信インフラの整備などを進めており、その成果も出始めているという。

 スマートワークライフ#Nikkoの事務局も務める総合政策課の長田善志さんは「県内企業ですが、すでにワーケーションを複数回行っており、好評をいただいています。リフレッシュや社員相互の親睦を深めるだけでなく、チームビルディングの一環としてプロジェクトの集中推進などでもご活用いただいています」と手応えを語る。

 プロジェクトの実現に向けて、得意分野やスキルの異なるメンバーを配置して一つのチームとして進行する手法である『チームビルディング』。有効な手法だが、ビジョンの共有やコミュニケーション活性化によるマインドセットの形成などが課題とされている。日光市では、こうした課題解決の一環としてもワーケーションを推奨しており、様々な規模の受け入れ態勢を整えている。

 「例えば都内で会議室をレンタルして検討する代わりに、日光の “非日常”の中でリフレッシュしながらプロジェクトを進めてはどうかという提案です。東京の浅草から乗り換えなしで気軽に来ることができる日光では、各種支援をご活用いただくことでコストを抑えながらワーケーションを実施することができます」(小林部長)と日光市の優位性を強調する。今後、プロモーションの強化も予定しており、“日常”と”非日常”を手軽に低コストで感じられる同市のワーケーション需要はますます高まりそうだ。

 さらに、今後の有効活用が期待される未利用資源として“森林資源”がある。日光市は面積の86%を森林が占めており、その活用は大きな可能性を秘めている。 「水源涵養機能を保持するために適切に保全すべき地域もありますが、特に人工林は適度な間伐など人の手が入らなければ、水源としての機能も温室効果ガスの吸収効果も十分に発揮することができません。森林資源の有効活用を進めることが環境保全にもカーボンニュートラルにもつながります。さらに、森林の健全化によってエコツーリズムなどが可能になれば、新たな観光資源や新しい働き方にもつながっていきます」(小林部長)と期待を寄せている。

人口増加へ子育て環境や教育の充実も

 日光市の抱える人口減少対策という課題。これについて小林部長は「人口減少は日光市の長年の課題です。特に若い世代の都市部への転出により減少が続いています」と懸念している。一方、「『スマートワークライフ#Nikko』による“新しい働き方”の導入をきっかけに、市外からの移住や定住にもつなげていきたいと考えています」と新たな取り組みへの意欲も見せている。

 若い世代を中心とした人口増加へ、日光市では手厚い子育て支援策を講じている。例えば、地域と学校、家庭が連携して地域ぐるみで子供を育てる体制整備のための学校支援ボランティア活動推進事業の実施や学校運営協議会の導入。また、教育支援センターの機能強化によって一人ひとりの成長を支える教育環境の実現や、未就学児から英語に触れる機会を設ける早期英語教育事業などを進めている。さらに、子育てに要する費用負担を軽減するため、おむつや授乳関連用品につかえる『すくすく赤ちゃん券』の支給や高校生3年生相当までの医療費助成、保育園や幼稚園の保育料についても第2子は半額、第3子は無料とするなど子育て世代を支援する様々な施策を打ち出している。

  一方、これらの施策を生かして人口増加を促進していくためには対外的なPRも必要となる。こうしたプロモーションについて小林部長は、「ワーケーションをはじめとする『スマートワークライフ#Nikko』の取り組みを通して市内外の交流を拡大し、観光資源以外の子育て環境や住みやすい地域環境など日光市の魅力をPRもしていきます。日光市の魅力を発信していくことで移住や定住、企業の移転やサテライトオフィスの設置につながり、新たな産業やコミュニティの創出により地域が活性化していく。これからの日光市を考えるうえで、スマートワークライフ#Nikkoは様々な地域課題の解決を担うことができる存在だと考えています」と取り組みの先にあるものを見据えている。

スタートは公民連携、いずれは民間の活動に

 “新しい働き方”を軸とした日光市のさらなる発展に向けて、欠かすことができないのが民間企業の力だ。『スマートワークライフ#Nikko』もNTT東日本などとの連携から生まれた事業だが、日光市では公民連携に積極的に取り組んでおり、2022年11月現在で13社と包括連携協定を結んでいる。

 公民連携のあり方について小林部長は、「事業を継続的に運営していくためには民間企業の力が必要ですが、参画する企業にもメリットのある仕組みでなければ継続は困難です。もちろん企画段階では関係者間の調整や各種支援など、行政が主導的に動くことでスムーズに進展していくという面もあります。その観点から『スマートワークライフ#Nikko』は公民連携でスタートしていますが、サービスの提供者も利用者も民間であることから、3年後をめどに民間による自立的な活動へと移管していくことを想定しています」と語る。

 行政の敷いた道の上を進むのではなく、民間企業が自主的・自立的に取り組むことができる環境を創出することで、事業を実施する民間企業に利益が生じ、地域課題の解決や新産業の創出といった形で日光市に還元される。それが『スマートワークライフ#Nikko』の目指す公民連携の姿だ。

 また、民間企業に頼るだけでなく地域の課題解決に取り組む市職員の能力向上も不可欠だ。日光市では、組織横断型の内部シンクタンク『日光みらい研究所』を設置して、職員一人ひとりの政策形成能力の向上や特定の地域課題の検討にも取り組んでいる。今年度はまさに人口減少対策について検討を行い、来年度からの事業化を目指している。

 行政能力を高め民間の力も活用しながら、継承してきた豊かな自然と文化を守り、地域の新たな魅力を発掘していく。“新しい働き方”から紡ぎだされる日光市の新たな魅力が、地域のさらなる発展につながっていく。

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