リキッド飼料で持続可能な『リサイクルループ』構築
株式会社日本フードエコロジーセンター
伝統的な発酵技術の活用で飼料・食品ロス問題に解決策
年間500万トン以上発生している「食品ロス」。まだ食べられるにもかかわらず、廃棄されてしまっているこの「食品ロス」対策に一つの解を示したのが、神奈川県相模原市でリキッド飼料化事業を展開する日本フードエコロジーセンター(以下、「J.FEC」)だ。
「食品ロスの発生量は全体こそ減少傾向にあります。しかし、いまだにその多くは税金を投入した焼却処分となっています。こうした情報をもっと広く周知し、発生抑制や再生利用につなげていかなければいけません」と代表取締役の髙橋巧一さんは語る。こうした思いをもとに立ち上げたのが食品ロスから液体状の発酵飼料を製造する「エコフィード」事業だ。「エコフィード」とは、環境の「エコ」(eco)と飼料を意味する「フィード」(feed)を合わせた言葉で、食品ロスなどを再生利用して製造する家畜用飼料のこと。当時、食品リサイクル事業を模索していた小田急グループと髙橋さんが出会い、共同でエコフィード事業を構想。2005年10月に相模原市内に小田急フードエコロジーセンターを開設した。
再生利用の手法として飼料化を選んだ理由の一つが25%(2020年度)と食品自給率よりも低い日本の飼料自給率だ。穀物やウイスキー粕等の粕類など「濃厚飼料」に至っては12%とさらに深刻な状況。そこで目を付けたのが、当時はほとんど行われていなかったリキッド飼料としての活用だ。
「食品ロスは水分を多く含んでおり腐りやすいため、エコフィード事業では乾燥して飼料化する手法が主流です。しかし乾燥は消費エネルギーも多く、コストもかかってしまう。一方、欧州では昔からチーズ製造時に発生するホエイ(乳清)やウイスキー粕(ウイスキー廃液)などを液体状のリキッド飼料として活用しています。また、日本古来の発酵技術にはpHを下げて酸性にすることで保存性を高める効果があります。これらの技術を応用することで良質なエコフィードが作れるのではないかと考えました」。獣医師であり、経営コンサルタントの経験もある。その多彩な経験が糧となり、リキッド飼料事業にたどり着いた。
翌年3月には本格的な操業を開始。さらに、法制度の改正が相次ぐ中で経営判断の迅速化を図るため、2013年10月には会社分割によりJ.FECとしての新たなスタートを切った。その後、排出事業者や養豚事業者など関係者も増加を続け、今では180カ所を超える食品関連事業所から毎日約35トンの食品ロスを受け入れ、約42トンのリキッド飼料を提供している。
最大の特徴は、乳酸発酵による液体状のリキッド飼料だ。牛乳、ウイスキー粕、ホエイ(乳清)、焼酎廃液などにより食品ロスを乳酸発酵させることで、豊富な栄養成分を含み保存性が高い良質なリキッド飼料となる。また、乾燥を行わないためエネルギーコストが抑えられるうえ、食品ロスの受入価格は焼却処理より安価に、飼料価格も輸入飼料の半額程度となる。こうして、排出事業者である食品関係者、飼料の利用者である養豚事業者、そして同社と関係者すべてがメリットを享受でき、社会にも貢献できる「三方よし」の食品リサイクルが実現した。
徹底した品質・情報管理で安全・安心・ブランド化を図る
飼料品質にも強いこだわりがある。「何でも飼料化できる訳ではありません。食品ロスには飼料に向いているものもあれば向いていないものもある。当社では飼料に向いているものだけを受け入れ、人と機械による徹底した選別によって異物を除去しています。養豚事業者に安心して使ってもらうには、徹底した品質管理が必要です」。品質を保つため、受け入れの際には専用の保冷車と回収容器を使用し、排出事業者別にデータを管理するといった徹底ぶりだ。
「養豚技術は年々進歩していて飼料に対するニーズも事業者によって異なるため、食品ロスを徹底して分別して飼料成分を細かく調整することで、配合比率の異なる5〜6種類のリキッド飼料を製造しています」。個別のカスタマイズが可能なきめ細やかな対応も評価の要因の一つだ。
「乳酸発酵したリキッド飼料により、一般の豚肉と比べて筋繊維が細かく柔らかい肉質となることが分かっています。成分としても不飽和脂肪酸を豊富に含んでおり、脂が甘いだけでなくコレステロール値の低いヘルシーな豚肉になります。また、乾燥飼料と比べて給餌の際に粉じんが発生しないので豚の肺炎等の疾病率が下がります。それにより、抗生物質等の使用を抑えることができ、安全で健康的な豚肉になるうえ、養豚事業者の作業環境改善や手間の低減にもつながります」
安全面でも徹底した管理を行っている。成分調整された原料は90℃の温度で60分以上加熱することで、十分に殺菌される。さらに専門機関による詳細分析など、様々な角度から飼料の安全性を検証している。そのほか、出荷したリキッド飼料のサンプルや製造情報を一定期間保管し、それぞれの飼料がいつ、どのタンクで、何を原料にどのように製造され、どの運搬車で運ばれたかまで、あらゆる情報を追跡できるトレーサビリティシステムも構築するなど、万全の管理体制を敷いている。
こうしたこだわりが豚肉の評価にもつながっており、小田急グループは「優とん」、エコスグループは「旨香豚」(うまかぶた)としてブランド化。いずれもリピーターが多く、お中元やお歳暮などのギフト用としても人気となっている。 この動きは他の小売業者にも広がり、イオングループやセブン&アイグループ、いなげやなど多くの店舗で取り扱いが増加している。
「多様な食品リサイクル」実現へバイオガス化事業にも参入
同社の事業におけるもう一つの特徴が、関係者との連携によるリサイクルループの構築だ。食品工場やスーパー、百貨店などから排出される食品ロスを受け入れ、リキッド飼料を製造。リキッド飼料は契約養豚事業者で使用され、生産された豚肉は提携する食品工場やスーパーなどで取り扱われる。そして、これらの工場やスーパーから排出される食品ロスを再び受け入れる。食品ロスが形を変えながら関係者の間で循環利用されるという、持続可能なリサイクルループだ。
異業種間の良好な関係を維持するのも容易ではない。「異業種間の協業には、社会に貢献するという共通の目的に加えて、相互の信頼関係の構築が不可欠です。排出事業者からはもっと多く受け入れられないかとの要望があり、養豚事業者からは最適なタイミングでの最適な量の搬入などの要望があります。しかし全ての要望に応えることは困難。需給バランスを取りながら対応し、時には他の事業者を紹介するなど、お互いの状況を共有し妥協点を見出すためのコミュニケーション能力が求められます。当初は私が対応してきましたが、社員の成長とともに対応の幅が広がってきました」食品ロスという社会問題に取り組んでいるという矜持が社員一人ひとりに浸透しており、会社全体の成長につながっている。会社分割から「9年連続で黒字達成」、「離職率ゼロ」という安定経営の根幹がそこに垣間見える。
さらに食品リサイクルの拡大に向け、来年度からバイオガス事業をスタートさせる。「これまでは飼料品質を考慮し受け入れる食品ロスを制限してきましたが、より多くの食品廃棄物を有効活用できるようになります。地域の特性を見極めつつ、資源の有効活用を目指
した多様性ある食品リサイクルに取り組んでいきます」
SDGsの取り組みとしても注目
J.FECのエコフィード事業はSDGsへの貢献の点でも注目され、多くの表彰を受けている。「SDGsのために何かをやるのではなく、顕在化している社会的課題に対して、自社の事業を通してどのように貢献できるかを考えています。当社も食品ロス問題と飼料問題が事業の出発点でした。そうした公共の利益に資するということが、社員のモチベーション向上にもつながっています。また最近では、学校教育にもSDGsが盛り込まれており、大人より子供の方が正しく理解しているようにも感じます。多くの世代から評価される会社でありたいと思います」
多くの事業者と連携しながら、社会問題の解決と将来世代に思いを馳せる。J.FECの循環の環が日本の食を変えていくかもしれない。